奈落のひと
恋月 ぴの

顔見知りの男が死んだ

いつも何かにイラついていて
斜に構える自らの姿に酔いしれていた

そんな一人の男が死んだ




よくある話しだけど
おんなが二人いた

別れた奥さんと
男の最期を看取った内縁のひと

別れた奥さんの脇には小学校低学年の兄弟
幼い長男が喪主だった




埋めようとしても埋められなかった
甘ったれのごうつくばりで
欲しいものを手に入れずにはいられなかった

優しい言葉と執拗な暴力で
おんなの一人や二人は意のままに動かせたとしても

自らの人生まで意のままとすることは叶わず
果てに投げ出した負け犬の命

遺書らしき手紙に記された男の想い




むりやり引き伸ばした遺影
ゆがんだ口元は許してやるよと微笑んでいるのか

死人にくちなし

内縁のひとは日陰者を演じきろうと
受付の片隅で息を潜め

男との同居で失ったものを少しでも取り返す魂胆なのか
自殺者の葬儀などに訪れるはずも無い会葬者を待つ





自由詩 奈落のひと Copyright 恋月 ぴの 2012-02-20 18:55:36縦
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