生きる(ということ)
ブルーベリー
おまえがしねばよかった
つめたいみずのそこから
電話がかかってくる
記憶はゆらゆらと
もに流されている
水面は透き通り
夏の日差しを
キラキラと
反射している
今はふゆだ
おまえがしねばよかったのに
我に返る
マイクを持った主婦が
眼鏡の奥から
俺を睨みつけている
どうしてと問われ
言葉に詰まっていた俺に
放たれた言葉は
光の速さで
あの夏に到達する
わたしがしねばよかったのに
保健室で天井を見ながら
レモン水を啜るあの夏に到達すると
その後舞台は体育館へと移り
人気者達が固まってわいわいやっていたのを
スカートの裾を掴みながら横目で見ている
所在の無いわたしになる
あれも3月だった
おまえがしねばよかったのに
そんな電話が
彼にかかっていたというのを
わたしが知ったのは3月だったのだ
とうじにつけた柚子の皮を前歯でこそげ取りながら
主婦の話をへえと何の気なしで聞き流すふりをしながら
保健室の天井をおもいだして
わたしがしねばよかった
そう思った
今はもう思わない
水中の光と
3月の雪と
罵倒された(俺/彼)をおもうけれど
日常の泥濘に捕らえられ
皮膚と脂肪を分厚くした
俺にもわたしにも刃が届く事はないのだ
自分はただ作業服のまま
目の前の主婦へと深々と頭を下げ
失われた者へ後悔と自責の念を捧げた
忘れてはいけないのだ
みなものした だと して(で、あるならば)
直接この身体に刃が向く事があるならば
それは君の目のがらんどうより響く叫びであり
容易くは目の前の彼女から、電話の主から、それを、
、望んではいけない
「きみのことをおぼえている。」
どうして、と君が叫ばない限りは。
例えば君が永遠に叫ばなかったとしても。
その手が、その泥のような指が、
触れることが、できなかったとして、も。
自分は
きみのことをおぼえていよう
救済を求める指
あるいは土くれ
ふれあえるならば
それこそがすくい
だから
ひかりのさきで
いつかすべてへ
めをとじるまで