聖者バレンタインのブルース
竜門勇気


2月の風はな まだ冷たくて
寂しい気分がもう終わろうとしてる
焦れたむずがゆさが世界を支配してるんだ
羽根の生えた虫がいない季節は
音のないせせらぎ

俺はな あのちょっとワクワクしながら
裏切られる日が楽しみだったんだ
後悔に泣いていいのは 渇望しながら努力をしなかった人間だけだ
俺はそういう人間になろうと思って
つまり後悔に泣く人間であろうとしたし
実際そんな誓いを立てなくても
そのままで俺はそういう人間だった

ヴァレンタインデーが過ぎちまってるじゃねーか
もうどんな焦りも起きやしない
2月を支配するむずがゆさは
薄れて頭の後ろに濁っている
爆弾魔は公衆電話で恋人に何かを伝えている
俺はななんにも似あわねーのさ
俺はなありとあらゆる全ての全般にもう間に合わねーのさ

行動に公平なガキども
絶望に平等な俺だ
せいぜい大事にしてやるさ
陽だまりは青い
後悔に泣いていいのは 渇望しながら努力をしなかった人間だけだ
涙をながす時ぐらいちゃんとした資格ってのを得ていたいのさ
朝が来てまた
光り、歪むドアを開ける
カーテンを引きちぎり、ダムドのレコードを叩き割る
遠ざかる、転げ落ちる、夢を見る
はみ出る、笑う、次の世界を待つ


自由詩 聖者バレンタインのブルース Copyright 竜門勇気 2012-02-16 08:09:59
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