入江
日野

あなたの死体が
打ちあがる入江に
とうとう春が流れ込む

めだかの大群が弧を描き
光と影の
無数のオウトツが
あなたへ向かう

あたたかい波にたゆたい
塩に溶け
無機質な瞳が
ぶれるように
にじむように
泣いている

声がきこえる
まるで音叉を浸したような
かすかな振動をもって
はるか遠くから
押し寄せる

その小さな手をとり
その小さな爪を
口に含んだら 固く
塩の味

なんとなまぬるい風だろう

ああ今だけは
今だけは


自由詩 入江 Copyright 日野 2012-02-15 22:25:45
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