ラスティネイルをジム・ビームライでうんと濃く作ってくれ
竜門勇気

眠れない夜は僕にはなかった
いつもヘドを吐きながら意識が戻ってくるだけで
眠りたいなんて思ったことは一度もなかった

腐った柿のヘタを何十個も飲み込んだあとに
胃の中に暴れ狂うミミズを一匹放ったみたいな気分が
少しだけましになったら部屋の扉を開けるんだ

部屋の扉は、光ったり、ストーブの側で忘れられた蝋細工みたいに
ぐにゅぐにゅ溶けたり、とにかくじっとしていないし
僕の手は部屋中あちこちにゆるいゴムで結ばれてるから
鉄だかアルミだかのドアノブをつかむまでに
積み重ねた本やレコードを叩き壊し、時にはカーテンの一枚も引きちぎらなければいけない

階段を降りるのも同じように難儀する
ただの合板で出来てる階段が突然数十メートル遠ざかったり
ギリシャかなんかの彫刻みたいに柔らかく曲線に変わったり
ただドアノブと違って一度踏み外せば下の階までつくので
それほど多くの時間はかからない

意識のない間
僕はたくさん夢を見る
夢が脳みそからはみ出て
夢のような現実も時々見る
錆びた思い出は
何度でも見たいと思えるほど
魅力的で
錆びた釘なんかと同じように
なんの役にも立たない

ラスティネイルを
ジム・ビームライでうんと濃く作ってくれ
役に立たない思い出は
不思議なことに
これ以上は錆びないんだ
どっかの町に僕が転がって眠っていたら
決して起こさないでくれ
役に立たない現実は
そこに生きるだけで
ただ悲しいんだ

ラスティネイルを
ジム・ビームライでうんと濃く作ってくれ
それが済んだら
ジム・ビームのビンをそこに置いたまま消えてくれ
僕がこの部屋を出てったら
そのビンを叩き割ってもう二度と思い出さないでくれ
だから最後に
ラスティネイルを
ジム・ビームライでうんと濃く作ってくれ


自由詩 ラスティネイルをジム・ビームライでうんと濃く作ってくれ Copyright 竜門勇気 2012-02-14 05:16:30
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