愛と誠
たにい

誠はちっちゃな頃から悪ガキで同情ってことがわからなかった。
人の辛そうな顔を見たり聞いたりするだけで不愉快になる。
自業自得だろう。 
それなのに人を恨みがましい目で見ないでくれ。
俺は何もしてない。
俺が悪いんじゃない。
そんな顔をするのはやめてくれ。

それでもどこかうしろめたさを感じていたから優等生が嫌いだった。弱い者に優しくするなんて偽善だろう。
人気取りか先生受けを狙ったかと勘ぐってしまう。
それよりは自分みたいに汚い者、劣った者、弱い者は嫌いと言い切るほうが正直だと自己肯定していた。
当然ながら友達はいなかった。親は心配したが誠は平気だった。くだらん奴らに馴れ従っているよりはひとりでいる方が気楽で良かった。

男の子の友達はいなかったけど女の子からはよくもてた。ある種の女の子にとっては憧れの対象だったようだ。異性への興味は人一倍あるくせに、誠は臆病だった。自分の弱点を認めたくなくて今度は女性を軽蔑することで乗り切ろうとした。この雌豚どもがと。
複数の女の子たちに取り囲まれてチヤホヤされている間は快調に冗談を飛ばしているのに、二人きりになったらもう大変。変な事をしたり言ったりして軽蔑されるんじゃないかと態度がぎこちなくなる。その内心を気どられのが嫌で妙につっけんどんな態度を取って結局は嫌われる。それがわかっているから極力女の子とは二人切りにならないように気を使っていた。

この変わった性癖の訳は二十歳の誕生日の夜に明らかになった。誠は前世で女を殺していて、彼の深層意識はそれを覚えていたのだ。
こんな夢を見た。
誠は横須賀海軍基地の米軍士官だった。非番の夜横浜でしたたか酔って愛という名の女の子を拾って山下公園に行く。ベンチでいちゃついている時、愛が誠のある部分を馬鹿にする。誠の頭の赤い酒霧に火がつく。その後の事は覚えていない。
気がついた時には誠は愛の首を締めている。誠は死刑になった。

殺した女の生まれ変わりを探し出し、その人に尽すことが今世の誠の宿命なのだった。その人以外の他の女性とは親密な関係を結んではならなかったのだ。

それから数ヶ月経って誠は愛の生まれ変わりを見つけた。勿論彼女は愛という名前ではなかったし、前世のことも覚えてはいなかった。
愛のために誠は無頼の生活を辞めて真面目に働きだした。愛と誠は結婚し、三人の子供が生まれた。誠は益々仕事に熱中したので、どんどん見入りの良いオファーが入って来て、五人家族は山下公園の近くに一戸建てを建てて毎年正月はハワイで過ごしているとさ。
めでたしめでたし。


自由詩 愛と誠 Copyright たにい 2012-02-14 03:08:30
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