芥川賞受賞作2作を読みました
ふるる

文芸雑誌、「文藝春秋」(三月特別号)に載っていた、芥川賞受賞作2作を読みました。


田中慎弥著「共喰い」は、女性がひどい目にあってばかりいますが、全体を覆うのは、「男ってほんとにどうしようもないんですよ」という作者の苦笑いのような気がしました。ひどい目にあうんだけど、女性への優しい視線というか、よく見てるなあというのを感じました。
川というと、「泥の河」という映画を思い出すけど、あそこまでやるせない感じではない。
時々ぐっとくる表現があって、猫が家を通るのでなく、家が猫を通った気がした、など、この作者の感受性は貴重だと思います。
ところで最近の小説を読んで思うのは、女性が無理やりされてしまうというのが多すぎるということです。今はこれがムーブメントなんでしょうか。そういうの入れると売れるんでしょうか。そういうのが出てくると、楽しく読んでいても「また!?」となって読む気を失います。


円城 塔著「道化師の蝶」は、着想を捕まえる銀糸で編んだ網が出てくる、単にその着想だけで書きつなげていった話、というスタイルで書かれています。たぶんわざとそれを狙ってるんだと思うけど。結果、話があっちこっち行って、まとまりがなく、読後感は、作者の趣味・興味に付き合わされただけって感じ。
つらいのは、出てくる人物が無味乾燥でまったく魅力がなく、興味がわかないところ。読むのがしんどい。
審査員選評は難しいとかわからないというのが多かったけど、内容は理解できる。
「作者の死」とか「テキストは織物で、読む人が作るもの」というのがベースにあるんだと思うけど、今更?という気がしないでもないです。
で、ダメかと言うとそうでもなく、読むのはつらいけど、着想のタネは撒いてあるので、後々あっちから見たりこっちから見たりして楽しめるようなお話です。ということは、「もっと構造や部品そのものを面白がってもらう小説のあり方もあるんじゃないか、と思うんです。感動を与えるばかりが小説の役割ではなくて、」と言う作者の意図は実現できているということかしら。

2作を並べると、日本文学のスタートから今はここ、という、甘いのと辛いの両方でいいですね。両方を混ぜたような小説があったらさぞかし面白いだろうと思われます。

ところで、三月特別号の文藝春秋は、大型企画として「テレビの伝説」というのがあり、倉本 聰の頭の中の「北の国から2011」あり、桂歌丸の笑点の思い出や、草野仁が黒柳徹子の「ふしぎ発見!」、里見浩太郎の水戸黄門などなど、長寿番組に携わった面々の面白話が読めて、よかったです。



散文(批評随筆小説等) 芥川賞受賞作2作を読みました Copyright ふるる 2012-02-13 17:14:08
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