同心円
HAL

石がひとつ
広くもない池の真ん中に投げられた
その落下点を中心に水の輪が
ひとつまたひとつと
同心円となって広がっていく

きみのこころの池に
石を投げ込んだのはぼくだった

そのぼくの投げ込んだ石は
きみのこころを揺らしながら
美しい同心円を描くのをぼくは見ていた

きみには想いもよらなかっただろう
まさかぼくが
きみのこころに石を投げ込むなんて

でもぼくの投げ込んだ石は
間違いなくきみのこころの池の水を
揺り動かした

きみのこころは
ぼくの予想したよりも
大きく美しい同心円を描いて
きみはぼくの投げ込んだ石によって
さざ波よりもきれいな波を
ぼくに見せてくれた

それはきみもぼくのこころに
石を投げ込んでいいということだと
きみは気づいて石を投げ込み
ぼくのこころに生まれた同心円を
笑いながら見ていた

そんなことをつづけながら
ぼくもきみもきれいな同心円を見ながら
笑いあった日々はつづいた

でも
あの遠いある日からきみは石を
投げ込まなくなった

きみは別の池に
石を投げ込むのに夢中になった

ぼくがどれだけきみのこころに
石を投げ込んでも
きみのこころの池は
同心円を描かなくなった

ぼくが見つづけたのは
岸辺に打ち寄せられるだけのさざ波だった

でも何にでも終わりはやってくる
この想像もできない宇宙にだって
いつか
そしてぼくのささやかなこころの痛みだって
いつか

そんなむかしむかしの同心円を
いまでもぼくは想いだす

あんなに遠い遠い日々のことなのに
ひとりですこしだけ微笑むことのできる
年齢になってしまった


自由詩 同心円 Copyright HAL 2012-02-13 08:51:18
notebook Home 戻る