夜の淵
信咲

暗い 暗い 夜の淵を歩いていると
君が生きていた頃を思い出す
君は何も話さないで
静かに笑っているだけ

何も考えずに歩みを進めてみる
そのうちに僕は痛みがあることも忘れる
だんだんそのことに慣れてくる
痛みに鈍くなる
そのうちに僕は君のことも忘れてしまうのか

思い出の中には帰れないし
君の声ももう届かない
僕たちの行く先はどこにあるんだろ
僕たちはどこに向かうんだろ

夜のとばりは何もかも隠してしまうから
二人で話した秘密のかけらも
友達になれそうだった約束の続きも

夜のとばりは何もかも隠してしまうから
言えなかったさよならの続きも
君が笑ったときの表情も

僕はこれからもきっと年をとる
年をとりながらいろんなことを忘れていく
自分が忘れることにも鈍くなるころ
一番大切にしているものも忘れてしまうんだ

一緒に笑った時間は帰ってこないから
泣いても何にも変わらないから
止まった時間のかけらによりかかっても
何も見えやしないから


自由詩 夜の淵 Copyright 信咲 2012-02-12 23:51:27
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