産み月
ふるる
子を宿す誇らしさと後悔を
ごちゃ混ぜて女は吐き出す
野原の上に建っている家はとてもよい紅色
とても満足
まんぞく
足デ満タサレルと読めてしまう滑稽さに
ほほえむ
想像を絶する痛みを想像する滑稽さに
のけぞる
幸福そうにほほえむ彼女たち
顔の半分は恐怖できらめいて
足音が
部屋の隅でして
見ても何もいない
全てに敏感になってゆくせい
匂いに音に気配に存在に本当に
あたしたちは十代の頃一気に
蓋をしたはずだった
それらが少しでもはみだしてこない
よ
うに
産み月なので少女たちが次々と
孕んでは空へ
昇ってゆきます
**
燃えるような
空虚なのだった
何度か、吐き気をこらえて
森を抜け山を越え雲を渡り
まっさかさまに落ち
でも感じないイタ味という
甘美だっただろうもの
ふるさとではない匂いを嗅いだ、
冷たい鉄剤を飲んだ、
穏やかな天使の瞳を憎んだ、
「あなたは気づかないの?
あなたの目は、泣いているのに」
蓋をしたはずだった
こわい、
夫という生き物のいない
紅色の家で
救いの歌が
聞きたいと
願う
***
みちるちゃんは
お母さんお父さんという
空虚を持っている
それは水のようにさらさらで
火のように不安定
先月から子供を産める体になった
みちるちゃん
将来の夢はキャバクラのおねえさん
夜に一人は嫌だし
役に立つ仕事をしたいし
結婚したいかどうかはわかんないな
赤ちゃんが欲しいかどうかはわかんないな
本物のメロンを食べたことのないみちるちゃんは
メロンパンをかじる
今夜は満月で
何かを孕んでるみたいに
見えるね
生きるってめちゃくちゃ大変だけど
何ももってないけど
口に蓋してないから
歌はちゃんと
歌えるんでーす
満月の彼方から
少女たちが紅の炎を胸に手に
歌いながら
歌いながら
地上へ
地上へ
還ってゆきます