【 山茶花 】
泡沫恋歌

早朝に
冷たい北風が吹き荒れて
庭の山茶花が散っていた
そこらじゅうに
真っ赤な花びらがてんてんと
血のように落ちている

家の鬼門には赤い色
魔除けに植えられた山茶花だった
色彩の少ない冬場には
あの紅色はあざやかで
確かに人目を惹いたのだ

たとえば
南天のように実だけなら
こんな不様な散り方はすまいと
女は足元に散る山茶花の 
紅い花びらに問うた

風に負けない強さが 山茶花にはなかった
だから遊ばれて こなごなに吹き飛んだ

散ってしまったら
惨めなものだと風が嗤う
終わった恋など押し花にすればいい
女は唇をぎゅっと噛んで踏みつけた
忘れてしまいたい面影と
優しかった男の声と
手の温もり

道に散った花びらを
捨てていった男に投げつける言葉で
踏んで 踏んで 踏み躙る!

胸に燻る『未練』という鬼が荒狂う

女の足の裏は血に染まる
人に語らぬ恋の苦しみを
山茶花だけが知っていた――



自由詩 【 山茶花 】 Copyright 泡沫恋歌 2012-02-12 16:28:28
notebook Home 戻る