salco

車庫へ還らぬバスは
停留所にも停まらない
ただ辻々で
わずかな客を乗せて行く
代金は要らない
誰もが代償を払っているから

今日は五人だけ乗っている
眼鏡を失くした男と
手紙を置いて来た女と
水着のまま少年はタオルも巻かず
病み疲れた老女は
もう少しうたた寝をするようだし
疎外のホームレスに
車内は別天地の暖かさだ
老女の他はみな目を覚ましていて
闇の飛び去る窓外をぼんやり見ている

誰もが行き先を知っており
戻れない事も知っている
言葉を交わす者はなく
華奢な少年さえ泣きはしない
ただ、誰かの声をもう一度
聞きたいと心の中で思っている
それさえ叫び出すに足る
狂おしい願いでは最早ない
闇に飛び去る景色の中で
真昼の風鈴みたいに
間遠に鳴るだけ


自由詩Copyright salco 2012-02-11 23:56:55縦
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