右も左もわからずに
灰泥軽茶

巨大な駅に降り
ぐるぐる同じところを何回もまわり
見上げれば
巨大なデパートが
たくさんそびえているわけだが
道路を渡りたくても信号機はなく
びゅんびゅん車が走っている

大きな歩道橋を歩けば
自然と人の波にのまれ
用もないのにオフィス街を歩いている

地下街に降りると
縦横無尽に人が行き来し溢れている
気持ちと方向を定めて
いろんな人をかわしかわし
スタスタ歩いていくと
ちょうどいい場所に出口が見えてくる

あぁこれでひと安心と
薄暗い細い道を進んでいくと
エスカレーターが見えてくるのだが
音もなく猛スピードで
黒い階段を絶え間なく吐きだしている

見上げれば
まっさらな空と
上りのエスカレーターが
目も眩むほど高くそびえている

うしろを振り向けば
誰も来ず
しんとしていて
誰もいなくなったような気配だ

このまま戻っても
また違う場所に連れられていくだけだから
手すりをつかまえ
えいっと軽くジャンプすると
ほいっと足が着かないうちに
体は空高く
浮いて浮いて
巨大なデパートの屋上に投げ出される

屋上は
遊園地とゲームセンター場の
残骸空しく廃墟となっており
メリーゴーランドの馬が植木に刺さっていたり
空っぽのUFOキャッチャーが点滅し
ときおり動いて空振りしていたり
5基ほどの小さな観覧車がゆっくり回りながら
誰かの洗濯物を乾かしている

のどかな太陽に照らされながら
何か埋もれたお宝はないかとぶらぶらしていると
ツタでびっしりとおおわれたショーケースの中に
いつかのヒーローたちが
ポーズをしっかりとって正義を守っている

水が半分ほどたまった小さな釣り堀には
金魚たちが美しく泳ぎ
メダルが底にたくさん捨てられていて
ゆらゆら
きらきら
綺麗な光景に見惚れる

私は網でできるだけメダルをすくい
ポケットにじゃらじゃらいれるだけいれて
ベンチに腰掛け
巨大な駅とそびえるデパート
小さく動く人や車を眺めながら
うとうとしていると
いつのまにか
大瀑布の轟音にはっと目を覚ます

そこは大渓谷
無数のエスカーレターが
一番底の巨大な駅に向かって急直下している

人が人が溢れるように
おしめきあいひしめきあいながら
下に下に向かっている

そうして
巨大な駅からは空に向かって
たくさんロケットが発射している

私も周りの人にせかされて
下りのエスカーレーターに向かって
もみくちゃにされながら
半ば団子状になりながら
猛スピードで急直下し
空に投げ出され巨大な駅の改札口に
ふわりと着地する


自由詩 右も左もわからずに Copyright 灰泥軽茶 2012-02-11 01:34:17
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