売春婦のバギナには意外と詩が沁み込む
ホロウ・シカエルボク



昨夜は隣の部屋に住んでる売春婦のヴィッキーがよほど景気が悪いのか自室にまで客を連れてきてあああんたのキャノンボールとてもステキなんてよく分からないことを言ってヨガるものだから俺ときたらえらい寝不足で朝からいつでも倒れられるような有様で日がな一日甘ったるい臭いの中でクッキーを焼いてオーブンの熱でヘロヘロになりながらようやく週末がやってきたと小銭を慎重に勘定して絶対に大丈夫なぶんだけバーボンをがぶ飲みしてまあなんだかんだとクソみたいな出来事は沢山あったけれどそんなに酷いというようなこともなかったから今週もまあまあいい日だったとなんとなはなしに納得して薄汚いアパートメントまで辿りついたらヴィッキーもちょうどご帰宅あそばしたところでどうしたんだい今日はえらく股を閉じるのが早いんじゃないかとからかったら最近ちょっとオマワリサンに目をつけられていてねなんて顔のパーツがぜんぶ鼻にくっついてしまうんじゃないかというほどの仏頂面を作ってそういうので儲けたのかいと尋ねたら先週まではとてもよかったと言うのでどうして目をつけられたんだと聞くと新しくこっちのほうに手を伸ばしてきた大きなタチの悪い組織が上物でオマワリのボスのモノを弄んで文字通り掌握し奴らの思い通りに動かしはじめたっていうんでそいつは運が悪いなとちょっと同情したらなんだか思いのほか彼女の気分がほぐれたらしくネエあんたお酒持ってないかしらなんていうものだからクソみたいなワインでよかったらあるよと答えたらクソみたいなのでいいのよと言うのでちょっと待ってなと言って自分の部屋からあるだけ持ってきて飲みたいだけ飲めばいいと言うとどうしてこんなにくれるのなんて目をキラキラ輝かせながら聞くもんだから何週か前に繁華街の近くで酒屋のトラックが横転したときに何本かくすねた話を聞かせてやったらゲラゲラ笑いながらでもクソみたいなのねと言うからそうなんだよと答えて俺も酔ってたもんだからなんだかおかしくなって一緒になってゲラゲラ笑いながら一本空けて彼女に渡してやって自分の分も開けて乾杯して飲んでやっぱりクソみたいだと言ったらヴィッキーも唇の端で同意してそれから俺たちはグダグダ飲みながらいろいろと話をした、彼女はまず俺がどんなことをして生活しているのか知りたがったので一日中バカでかいオーブンでクッキーを焼いていると説明したら仕事していないときにはなにをしているのかと言うので音楽を聞いて読書をして時々詩を書いていると説明したら詩について知りたがったので俺はたぶん馬鹿にされるだろうなと思いながら自分が書き溜めているものの中からいくぶん短いものを選んでいくつか聞かせてやったら素敵じゃないと言うので逆困ってそうかなと言ったらそうよと言うので詩とか好きなのかと尋ねたら自分じゃ書けないけどねと前置きしてだけどあんたの詩は素敵だわと言うので俺はちょっといい気分になってクソみたいなワインをまた飲んで仲間はいるのかと聞かれたので仲間なんていうものはあんまり居ないけれどと前置きしていろいろと朗読会に集まるおかしな詩人の話を聞かせてやりその中で他人の詩からこそこそとフレーズをくすねては小細工して短い詩を読む姑息な男の話は彼女のお気に召したようであんたもその男に詩をパクられた事があるのかなんて聞いてくるものだからたぶんあると思うと答えたらたぶんって何よと言うので俺はそいつの詩にそんなに興味はないからと言ったらまたゲラゲラ笑ってだけどそいつまるで乞食みたい売春婦以下だわと言って床に唾を吐いてそれからどうして詩を書くのかなんて話をして俺は結局ひとりでいろいろやってるのが好きだから詩を書くんだってことに落ち着いてああそういう感じ凄く分かるわよとすこしトロンとした目で同意してだけどみんなつるみたがるんだと俺が言うと大笑いしてそれからもう飲めなくなったわと言うのでワインを隅に寄せて床の上で俺たちはセックスして心配しないでお金は取らないからと彼女はトロンとしながら言ってうんうんと言いながら俺は彼女のいろいろな突起や窪みに舌を這わせて彼女も同じようにしてそれからなんだかんだで俺たちはきちんと終了してしばらく床で抱き合って眠ったが俺は夜中に突然目を覚まし便所に行って帰ってきたらヴィッキーも目を覚ましていてそれもヤケに厳しい顔つきになっていて悪いけど帰って頂戴と言うのでどうしたんだいと聞いたらあんたはセックスまでひとりでするタイプなのねと言って空になったワインを投げつけてきて俺はそれを受け止め損ねて左胸をひどく打って瓶は床で電球がそうなるときみたいな音を立てて割れてでも君もちゃんとイッたじゃないかと反論するとそういうことじゃないと言いながらワンワン泣いてラチがあかないので仕方なくおやすみと言って部屋に戻ると売春婦を傷つけるようなセックスなんて初めてだと文節をくっきり区切りながら壁の向こうで傷ついたヴィッキーは怒鳴って俺は何かそんなに酷いことをしたのだろうかと思いながらでもしこたま酔っていたので穴だらけの毛布をかぶってやれやれと思いながら昼まで眠ったら目覚めたとき俺の部屋にヴィッキーが居てあの昨日はごめんなさいみたいなこと言ってあたし時々ナーヴァスに過ぎるのよなんて洒落たこと言うのでまあいいよと答えてそれから二人で安いコーヒーを飲みに出かけて何だかややこしいなと思いながらその日は一緒に過ごしてそしてまたバカでかいオーブンの前で甘ったるい臭いに辟易しながらクッキーを焼いてこないだとは違う理由でひどい寝不足で時々サボって便所で詩を書いてそれからまたクッキーを焼いて今日家に帰ったらキャノンボールって言うのは止めたほうがいいとヴィッキーに提案するのを忘れないようにしようと思いながら。


自由詩 売春婦のバギナには意外と詩が沁み込む Copyright ホロウ・シカエルボク 2012-02-09 00:40:59
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