ふるる

見えない塔のてっぺんから
見えない鐘の鳴る音がする

見えない塔には見えない人が住んでおり
少しのふこうと
少しのしあわせを
味わった

見えない塔には見えない鳥が飛んできて
よい声で鳴いた

見えない塔には見えないツタが絡まり
除草するのが一苦労だった

見えない塔には見えない穀物が運ばれ
固いパンが焼かれた

見えない塔には見えない赤ん坊が産まれ
おとなしく泣いた

見えない塔には見えない王が鎮座し
オルガン、とつぶやいた

見えない塔には見えない民衆が押し寄せ
オルガン、と怒鳴った

見えない塔は見えない炎に包まれ
見えない鐘ごと崩れ去った

ここ、
足元の花の群生しているあたりが
塔の跡地だったと言われている



見えない塔は少し花を摘み
いつものように鐘を鳴らし
誰かが落としていったハンカチを
てっぺんに干す




自由詩Copyright ふるる 2012-02-06 13:24:34
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