夜の通勤急行列車
灰泥軽茶

夜の通勤急行列車

ゆっくりだんだん蛇行しながら

「プシュー」と

最後に息を吐き出して一時停車

車掌さんのクネル声でどうやら信号待ち

皆も疲れて

「プシュー」と

息を吐き出し

無言の虚空を眺めている

ただつり革につかまって手を揺らすおじさんの

開いたジャンパーのジッパーの

かちゃかちゃ鳴る音だけが

なにやらせわしげに笑っている

ポツンと夜空に列車は動く気配はなし

皆の顔はなんだか粘土細工のように乾燥してきた

着ている服もなんだか紙のようだ

そういうわたしも体の中身はとっくに出されて

ハリボテ化されたようにあちこちペコペコしている

あぁきっとこのまま取り残されて

時の流れに身をまかせ何十年も同じように

どうしてここに取り残されたのかもわからず

捨てられたセルロイド製の人形のように

妙に生々しく虚空を眺めているのだろうか

窓に映る皆の姿はいつのまにかにどこかに行ってしまい

空っぽののっぺりとしたフカフカの座席が横たわっている

列車の中には人が溢れているけれど



自由詩 夜の通勤急行列車 Copyright 灰泥軽茶 2012-02-04 01:42:58
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