夜の通勤急行列車
灰泥軽茶
夜の通勤急行列車
ゆっくりだんだん蛇行しながら
「プシュー」と
最後に息を吐き出して一時停車
車掌さんのクネル声でどうやら信号待ち
皆も疲れて
「プシュー」と
息を吐き出し
無言の虚空を眺めている
ただつり革につかまって手を揺らすおじさんの
開いたジャンパーのジッパーの
かちゃかちゃ鳴る音だけが
なにやらせわしげに笑っている
ポツンと夜空に列車は動く気配はなし
皆の顔はなんだか粘土細工のように乾燥してきた
着ている服もなんだか紙のようだ
そういうわたしも体の中身はとっくに出されて
ハリボテ化されたようにあちこちペコペコしている
あぁきっとこのまま取り残されて
時の流れに身をまかせ何十年も同じように
どうしてここに取り残されたのかもわからず
捨てられたセルロイド製の人形のように
妙に生々しく虚空を眺めているのだろうか
窓に映る皆の姿はいつのまにかにどこかに行ってしまい
空っぽののっぺりとしたフカフカの座席が横たわっている
列車の中には人が溢れているけれど