かまぼこ型 どんぶり型
ただのみきや

吹き荒ぶ二月の夕刻
山裾の疎らな住宅を
訪問営業でまわるのは
 実に 切ない
長靴ギリギリの雪をこぎ
通りから玄関までの細道を通りぬけ
もはや顔面がかじかみ
鼻水が垂れている感覚すらない
インターホン越しに名乗った途端
つららの如き「結構です」
口裏を合わせているのかと思うくらいに繰り替えされる

幸いアタマは冷やされっぱなしで
薄暗闇に黒々とした輪郭の山脈を眺めては
まったく優しくない自然の美しさに 
されるがままにボンヤリ立ちつくしたりもする
  
 ふと見上げると
 雪雲に覆われた
 半月ひとつ…

この位置からだと かまぼこのかたち
日本美人の目の型だと聞いたことがある
 
 だが 一つだけ

ウインクしていると思ってもみたが
やっぱり変だ まるで一つ目小僧じゃないか
かまぼこおめめを二つならべてみる
だめだ まだ日本美人には程遠い
 よし それじゃあ 
もっと小さなかまぼこを
逆さの どんぶりのかたちにして
口の辺りに持っていってみる

 ――うん 少し 美人に近づいたような

だけど ふと
月の満ち欠け 新月や満月の
美人の顔を想像してしまい

  吹き出してしまう

気がつけばもういい時間じゃないか
続きはまた明日頑張ればいいさ
さあ とっとと帰ろう


自由詩 かまぼこ型 どんぶり型 Copyright ただのみきや 2012-02-02 23:46:29
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