薄氷の空
涼深

――薄氷の空
  貴女を攫う雪の華が綺麗で
  ただ見つめることしかできない
  世界を彩った、鮮やかな白



凍える大気
震える太陽
足下の街並みは雪に沈む


何一つ変わらない朝
貴女がいないということさえも
何一つ、変わらない


空は高くなり
風は鋭く
巡る季節が葉を散らす
戻りたい場所は一日ずつ遠ざかる


貴女が消えたあの日から
幾つの季節が巡ったのか
吐き出す息が白くなるほどに
焦燥は加速していく



風に晒され冷え切った皮膚の下
流れる血が凍りつくほどに
抱えた夢が放つ香りは甘く

辿り着く先を持たない魂は
諦めることばかり上達していくよう

叶わぬ願いは歪み、捩れ
それでもなお純度を増していく


あぁ、
失った痛みは
今も鮮やかにこの身を切り付ける


仰いだ空からひとひらの雪
足元の街並は遠く小さく

貴女との境界線を曖昧に描いた



感覚無くしたつま先
空へと踏み出す



――はらり
  舞い落ちる、約束――



白い雪は熱に触れ、水へと還る

繰り返す呼吸に
痺れる指先に
街のざわめきに

時計の針は動き出す


壊れそうな薄氷の空
舞い散る雪の華

いつか終わりへと繋がっていく


それは鮮やかな白に彩られた
貴女を近くに感じる季節


自由詩 薄氷の空 Copyright 涼深 2012-02-01 09:30:20
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