白痴王の湖
和田カマリ
あこがれの総理に処女を捧げた、グラドルの手島Yさん、その過激すぎるエプロン姿のため、NHKの首脳陣から、激しいバッシングを受けていた頃、俺は君達の街の教会のカタコンベで、非常に状態の良い悪魔の頭蓋骨の発掘に成功していた。
油紙に包まれ、埋められていたそれは、両のこめかみの上から、小角が飛び出していた。そして、ところどころ白髪の生えたビーフジャーキーのような肉片を残していて、ジュンジュンと分泌液を迸らせていた。ガン細胞をも遥かに超える生命力だ。
言い伝えでは、この頭蓋骨を舐めながら願いをかければ、何でも叶うとの事。早速やってみた。ペロペロすると、昔良くペッティングをしていた、親戚の叔父さんの、禿頭のニオイと味が蘇った。
「王になって、処女とやりまくりたい。」
骸骨は急に発光しだした。じっと見つめていた俺には、自分の身体から魂が抜け出て、誰かの意識に超速度で飛んで行くや否や、霊的な刷り込み作業を開始したのが体感できた。オーヴァーライトが進行するにつれ、だんだんと眠くなって行った。
気が付くと俺は、寒い地方の湖で、立ち泳ぎをしている一羽の白鳥になっていた。他に雄はヨボヨボのが一匹だけで、周囲には肉付きの良いセクシーな雌たちがワンサカ群れていた。
中でもブラックスワンのナタリーは(勝手に命名した)冷水の中ですら、この俺を勃起させてしまうくらい、物凄いフェロモンを発していた。俺は、古式泳法よろしく、背後からナタリーに近づき、素早く羽交い絞めにすると、下半身の氷柱をあそこに突っ込んでやった。
バリバリ
膜が裂ける音、生まれて初めて処女と出来た瞬間だ。
しかし、鳥でいる時間があまりにも短かったせいなのか、俺は翼の扱いが下手で、うまくホールドできず、ナタリーを離してしまった。彼女は鳴きながら湖面を滑走すると、灰色の空へと飛び去って行った。お尻から何かを垂らしながら。血、ではなかった、もっと透明で、一部分黄色いイメージ。
「約束と違うやんけ!」
ナタリーは処女じゃなかった、産卵寸前の身重の雌だ。
俺は狂ったように羽根をバタつかせ、視界に入る白鳥達を次から次へと犯しまくった。
バリバリ
バリバリ
いくら突っ込んでも、破れるのは卵の殻ばかり。
死ぬまで処女を抱けないと言う、俺に懸かっている呪いの方が、悪魔との契約よりも、何倍も強力だったのだ。それはあえて、人から鳥へランクを下げたとしても、変わり様のない事実。俺のした事は単に、湖の富栄養化を促進しただけ、とんだ触媒野郎だ。
クレーマーでもない俺、悪魔の頭蓋骨に対し、契約違反をかたにゴジャゴジャ言う気はさらさらなかった。なんかもうどうでも良くなって、長い首を羽根に納め、深い眠りに落ちて行った。
「総理、総理、御答弁を。」
執事のような老鳥が、俺のお尻を突っついて、泥のような眠りを妨げる。
「総理、総理、お気を確かに。」
うるさい、うるさい、うるさい。
苛ついた俺は大きく羽根を拡げ、首をスックと伸ばしながら叫んでいた。
「やかましい!どうせ俺はファーストキスも、BもCも、全部ソープランドだ。」
一瞬の沈黙の後、凄まじい怒号が聞こえた。ここはどこだ、少なくとも湖ではない。陸上の、何かの建造物の内部だった。しかも、テレビで見たことがあるような。も、もしや・・・
次の日の新聞各社の朝刊のヘッドライン
「紛糾!消費税国会 首相乱心 一発レッドカード」
「寝ぼけ総理 白鳥の舞 悲惨な性の歴史 退陣へ」
「総理失踪 行方不明 警察も安否確認できず」
愛人と噂される、手島Yさん、ワイドショーの取材に答えて。
「私が捧げたあの人、あんな変態じゃない。何もかも変わってしまった。もう、死ね。」
自衛隊を巻き込んだ必死の捜索にもかかわらず、秘密の場所に隠れていた、俺の行方は知られなかった。
ただ、ちょうどその頃、遠い北国の、とある湖畔に打ち上げられた、首のない一羽の白鳥の屍骸が、カラスの群れにボロボロにされていたのが、地域の話題になっていたし、また、君達の街の教会のカタコンベでは、誰の物だか判らない男性の首無し死体がひとつ、発見されていたらしい。
これらの出来事は、普通、どう考えてみても不連続的なんだけどね。