夢のつづき (夢喰植物)
乾 加津也

感覚は、何かがあることを教えてくれる。
それはその物が何であるのかは伝えないし、
その物にまつわる他のことを伝えてもくれない。
ただ何かがあることのみを知らせるのである。

(C.G.ユング 1875〜1961 スイスの心理学者)


+深水さん+

はじまりは思い出せない
何かを買うつもりだったが
その前に 自宅まで
母親を車で送ることにした途上で

N市の交差点付近でイベントがあり
戦没の軍人たちの人形が
ステージで行進するというアトラクションを見た
人形たちの顔がのっぺりと白い布で包まれ
その顔全体は漢字をイメージさせ
「深水」
「深川」
などと書かれていた

(このあとの記憶は覚束ない)


+倒れるエイリアン+

次の目的地で
わたしは消防士の出動のようにポールを握って滑って降りて
そこからは螺旋階段を駆け下りる
暗い階下には三人の若者がしゃべっていて
わたしが降りてきたと同時に四人目のエイリアンが消えた
三人はわたしがエイリアンを見ていないものと信じて笑っているが
わたしは消えたエイリアンの顔あたりに向かって
右足を蹴り上げた
輪郭に光線が走りエイリアンは倒れた
三人は驚いてのけぞった
そのままわたしは
現れた次の螺旋階段を駆け下りた

(そしてまたそこからの記憶がうすれる)


+死ぬほどの景観+

かなりの標高を誇る観光地にいる
ペンションだか旅館だかのようになっている施設から少し歩くと
世界一の絶壁に立てる
そこから臨む景色はといえば
死ぬほど美しい
(美しすぎるとは怖ろしいと同義だ)
(誇張でなく、あきらかに死と隣り合わせた)
遠くは海
海の手前は中国の農村を思わせる平原地帯が絹のように広がり
こちら手前の山の中腹から向こうにかけてかかる霧がうすい
どんなに悪い視力でも霧の下以外はくっきりと見渡せる
澄んだ大気までが見える
柵もないから
この場所から飛び込むこともできる
幻想はどんどん膨らんでゆく
呼吸が速くめまいがする
すぐにここから離れなければ
わたしが景色に吸い込まれる
後ずさりしてトラックの荷台に引き篭もる
幌の中で息を殺していると
外は雨になる

(すぐに次の映像が始まった)




わたしはその意味を問わない
ただ、わたしのもうひとりの潜在として
そこにいる


自由詩 夢のつづき (夢喰植物) Copyright 乾 加津也 2012-01-30 22:03:03
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