【 つれてかえって…… 】
泡沫恋歌

車椅子に座らされて 
ポツンと窓辺の席に居た
病院の中は明るく 
居心地良さそうに思えた
眼を閉じて朦朧としている 
あなたは……
見舞いに来た
娘たちの顔も分からない
どんよりと眼を開けて
消え入るような声で

   つれてかえって……

そうひと言いって 
また眼を閉じた
その言葉に義姉は 
眼を真っ赤にして……
つれて帰ってあげたいと
嗚咽を漏らした
症状が悪化して 
あなたを自宅で介護するのは難しい
余命幾ばくもない 
あなたを家族で看取ってあげたい

   つれてかえって……

あなたにしてあげられる 
最後の恩返し
その言葉が
わたしを追いかけてくるように
耳の中に残って
何度も何度も聴こえてくる
もう つれて帰っては
あげられないんだ
お母さん ごめんね
何もしてあげられなくて……

   つれてかえって……
    つれてかえって……
      つれてかえって……

           その言葉がわたしを責める




自由詩 【 つれてかえって…… 】 Copyright 泡沫恋歌 2012-01-30 19:56:00
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