多機能な女
乾 加津也
夜のドックから走り出す多機能な女
関節を裏側にまわしてステンレスのホイッパーを固定する
ふるえる卵黄と小麦粉がはねつく
すべりだしたパーツからコルク抜きが選択されると
シールドはしぶく
女がほしがるのは動力であって
愛ではない
ジョギングから帰るわたしに
夜景ごと切りとる紙を幾枚もくりだして四方を囲う
体を丸めて女は最新式のバスタブになる
女の目的はわたしの必要であって
しあわせではない
涙といえば
きちんと涙もでるようだった
(それが行為と、いうことだけれど)
悲しいはこうだよ
やさしく波立つわたしの深み
体温とおなじ成分(ぬくもり)がこぼれた