付箋
はなびーる

ぼくは栞になりたかった
図書館の本にそっと挟まったままの

あるいは
だれかが思いをこめて忍ばせた
四つ葉のクローバーに
あるいは
はからずも頁の上に落とされた
乾いた涙の跡に

ぼくを見つけたひとは
前に読んだだれかの
こころの波紋をなぞる、物語を紡ぐ
もしかしたら…恋焦がれる
ぼくはぼくであることをささやかに悦ぶだろう

けれど
ぼくはたいていベージュやパステル色の
地味で無粋な長方形のぺらぺらの紙
こんな姿には飽き飽きする
(最近はキャラクターの絵のものもあるけれど)
もうすこしお洒落にならないものか

もっと気に入らないことに
あるとき、理不尽に剥がされもする
あこがれの図書館の本に
ぼくがひょいと顔を出したものなどないだろう?

そのとき、だれかがささやいた

     でも、あなたはだいじな道しるべ。
     あなたがいるから、同じ頁がくりかえし開かれる。
     あなたは、知の世界に新しい酸素を送る肺胞なのよ。
     私はもう、忘れ去られそうだけど。

ぼくが挟まれた頁の
活版印刷の文字の「女」がつぶやいた
黒く濡れて
ため息交じりに滲んだ声で


自由詩 付箋 Copyright はなびーる 2012-01-27 18:03:04
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