白い砂利
HAL

誰にでも烙印は捺される
火傷の熱さもなく肌を抉られる痛みも覚えず

それはいつも自分には見えない身体の部分が選ばれる
自分には見えなくとも他者にははっきりと見える位置に

転落者とも落後者とも堕落者とも裏切り者とも
捺される烙印の文字は無限大にある
ときにはその文字さえなく唯の番号だけの場合もある

しかしそれは常に他者の独断によって
捺されるもの捺されない者が類別される

その捺された者の生と烙印に大きな乖離があったとしても
審判もなく弁護士もつかず裁判は結審する

烙印が捺されれば その者の生はそのとき死滅する
烙印を捺す決定権を持つ者は
一見 強者と想われがちだがそれは錯誤でしかない

友人と想っている者 親切である者 
強い絆で繋がっていると信じられる者
そして弱者と呼ばれる者もそのなかに含まれる
たとえ見知らぬ者であったとしても

弱者はいつの時代でもいかなる国でも
強者が力を持ちつづけ支配を辞めない限り
強者には歯向かっていかないあざとい知恵も持つ

絶対に自分が勝利者になれると云う者に対してのみ
烙印を捺す者となって神の役目とは想わずそれを為す

そして烙印を捺された者は
いつしか悲劇の幕が上がったことに気がつかない
大衆とは自分も含まれると想っている故に

さらに烙印を捺された者には拍手も喝采もなく
自分が予想だにしない展開で劇は進み幕が降りてくる
もちろんカーテン・コールはない

烙印を捺される者に一切の例外はない
誰かに自身の裸身を曝け出して
見た者が驚きの声を発し逃げ出したならば
それはすでに自分に烙印は捺されていると云うことだ

そしていつか烙印を捺された者は
誰にも振り返られることもなく
別れの末路には焼かれ残った骨は砕かれ
その骨に生は宿ったまま河原の砂利に混じって撒かれる

本当の幸いなる死が訪れ聖なる埋葬をされるまで
ずっと唯の白い砂利となって
この世界の歴史に或る種の厳然たるもの言わぬ
痛苦の苦い記憶として存在しつづける





※作者より
これは36歳のときポーランド語でオスヴェンチム。ドイツ語ではアウシュビッツと呼ばれる場所を訪れたときのきっと死ぬまで忘れたいのに忘れられない記憶の残酷さと600万人への魂に捧げる哀悼の確固たる意思を持って編みました。《白い砂利》とは、余りに多く殺戮をしたため砕いた骨を埋める場所が、広大な敷地にもなくなり、すぐ近くの川にばらまいたことを指します。僕が訪れた時点でも、その河原の石を靴で掘り起こすと、すぐに白い骨が出てきました。ガス室でチクロンBで毒殺され、すぐ隣の焼却場(ナチスはこう呼んでいました)で死体を焼き、焼かれた骨になった死体から金歯があればそれを抜き(スイスに送られた金によって金市場は大暴落しました)骨を砕くのは同胞であるユダヤ人の囚人の役目でした。


自由詩 白い砂利 Copyright HAL 2012-01-27 15:42:38
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