幸福
nonya


たとえば僕が
宇宙人にさらわれたとして
僕の不在に
気がつかない人は多いだろうが
僕の不在を
嘆く人は片手で充分数えられる

別に怨みごとを言うつもりはない
そんなものだといつも思っている

たとえば涙を
流してくれるのが君だとして
君は1日に1回
僕を子供のようにたしなめるし
僕は1日に3回
君に上目遣いで許しを請う

君は毎朝
僕のスーツのポケットに
アイロンのきいたハンカチを入れてくれるし
僕はたまに
思い出したようにデパ地下で
話題のスイーツを買って帰る
時にはふたりで
飼い猫のちょっとした仕草に目を細めて
時にはふたりで
レンタルのDVDを見ながら目を潤ませる

たくさんの人に
光を与える太陽のような人に
あこがれてしまうけれど
たくさんの人を
そっと見守る月のような人に
ときめいてしまうけれど
僕は選ばれた人ではないから
勇者でも救世主でもないから
できるだけ背伸びなんてしないで
小さな灯火を大事そうに抱えて歩く

別に笑われたってかまわない
そんなものだといつも思っている

でもそんな僕にも
簡単に宇宙人にさらわれてしまう前に
涙を流してくれるかもしれない君に
言わなければならないことはある

何をしてきたのか
何をしてこなかったのか
声高に責め立てたりしない
ささやかな冬の陽射しのような
君が好きだ





自由詩 幸福 Copyright nonya 2012-01-26 20:53:23
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