これは誘拐じゃない
kauzak
こんなに遠くまで歩いてきてしまった
と気付いてしまったらおしまい
帰り道が分からなくなるから
新開地の産業道路には殺風景な風が吹く
停留所でバスを待ちながら君と見上げた空は
砂埃が舞ってくすんでいるようで
なのにホッと息を吐けるのは何故だ
バスがやってくる
まるで地平線の彼方から現れたかのように
くたびれた風情で停留所に止まる
乗り込みながら君の手を掴んで引き寄せる
君は驚いた顔をしている
のに抵抗することもなく一緒にバスに乗る
何処へ連れて行こうとしているのだろう
何処にも行くあてなんかないのに
このバスもほんとうは回送なのに
扉が開いてしまったのなら乗り込むしかなくて
乗り込むしかないなら
君も連れて行くしかなくて
握った手をもう離せなくなっている
君のことまだ何も知らない