これは誘拐じゃない
kauzak

こんなに遠くまで歩いてきてしまった
と気付いてしまったらおしまい
帰り道が分からなくなるから

新開地の産業道路には殺風景な風が吹く
停留所でバスを待ちながら君と見上げた空は
砂埃が舞ってくすんでいるようで

なのにホッと息を吐けるのは何故だ

バスがやってくる
まるで地平線の彼方から現れたかのように
くたびれた風情で停留所に止まる

乗り込みながら君の手を掴んで引き寄せる
君は驚いた顔をしている
のに抵抗することもなく一緒にバスに乗る

何処へ連れて行こうとしているのだろう

何処にも行くあてなんかないのに
このバスもほんとうは回送なのに
扉が開いてしまったのなら乗り込むしかなくて

乗り込むしかないなら
君も連れて行くしかなくて
握った手をもう離せなくなっている

君のことまだ何も知らない


自由詩 これは誘拐じゃない Copyright kauzak 2012-01-24 01:02:11
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