失語症から
石川敬大




  蘇生のイキをするように
  そっと虚空に
  言葉をはなったとき
  言葉はすぐにちりぢりになってきえた

  あの日の
  あの青空には
  二度とであえはしない
  わかっているのに
  わかっていながら
  なんどもなんどでもでかけてゆこうとする


  なつかしさにであおうとして


       *


  いないはずのひとがいた
  すわっていた
  だまって
  あたたかい冬の縁側で日ざしを浴びて
  影が
  ほそくのびていた
  子どもらのわらい声がながれてきた
  だれかのくしゃみも

  いないはずのひとは
  やっぱりそこに
  いなかった


  朝のマクラがぬれていた


       *


  せつなさのイキは
  灰燼のぬくもりのなかにある
  と、だれかが言う
  彫琢されてきえずにのこる痛みが
  いまも疼くと






自由詩 失語症から Copyright 石川敬大 2012-01-23 12:41:27
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