湯冷め姫
ふるる

大柄な夜が行ったり来たりして
目にうるさいわ
と姫が言う

夜は地球の影だと
どこかの王子が教えてくれた
ならなぜあんなに行ったりきたりするの

小さな頃はよかった
やわらかいお湯につかり
タオル一枚にくるまれて
暖かいままベッドにもぐりこんで
そのまんまねんねの国

今はなんて熱い
さらさらのお湯に入らなければならないの
すぐに冷めてしまうというのに

熱くなりなさいと言われ
うらはらに覚まされる

肌にまとわりつく
浴槽のうたかた
お湯のなかで見るうつつ
夜は行ったりきたりしている

行ったりきたりする夜を
目で追ってはいけません
あちらの太陽をご覧下さい
あのシステマティックな日差しを浴びて
疲れて
ほどよい汗をかきなさい

今日のバスオイルはどんななの
歌や恋や夢って
与えられるものなの
お湯に溶かして
匂いだけ残して
さらさらに洗い流すものなの

姫はぶつぶつ言いながら

望まれて湯冷めをしに
湯気で向こうも見えない
巨きな巨きな浴場へ


自由詩 湯冷め姫 Copyright ふるる 2012-01-23 09:33:43
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