月の石(順不同)
吉岡ペペロ

鳩が二羽しかいないことをアマリアはあらためて不思議に思うのだった

ここにはカマンヌとスダーイとアマリアの三人がいる

ということは鳩は三羽いなければならないのだった

そんな当たり前のことが崩れていた

そのことをカマンヌには言ったことがある

なんにでも例外はあるというようなことを言ってカマンヌは傷痕に似合わぬ笑顔をみせた

カマンヌとまだ幼いスダーイの鳩はおなじだった

この世にはひと一人に一羽ずつ鳩がいる

アマリアもあれがおまえの宿命なんだよと孤児院で教わった

鏡が光に輝いたような白い鳩がアマリアの鳩だった

カマンヌとスダーイの顔を見つめる

カマンヌは四十過ぎの浅黒い男だった

その顔にはこめかみから唇にかけて深い傷があった

スダーイは十歳にも満たない男の子だった

ひとめ見て誰もがきっちりとした子供の印象を覚える

アマリアもカマンヌも旅のなかでスダーイのその優等な外見に助けられていた

旅から旅を常とした者がもつ虚無的で不穏な慌ただしさ

それにスダーイの存在が正当性をもたらしてくれていた

アマリアはスダーイの横顔を注意しながら見つめた

そしてカマンヌの傷を注意しながら見つめた

ふたりの鳩がおなじなら私の鳩も彼らとおなじでありたいと思った







自由詩 月の石(順不同) Copyright 吉岡ペペロ 2012-01-22 15:02:02
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