ハッピーエンド/2
モリマサ公

わに
ヘラジカ
アルマジロ
アザラシ
キジ
二匹のりす
コブラ対マングース
むささび
剥製たちの焦点のあわない目玉。
宇宙の銀河がもやもやしているところ。
なるべくラブリーなトーンでラテは話す。
一秒でも長く諏訪にかわいいとおもわれたい一心で。
大丈夫というとき人はあまり大丈夫ではないことを諏訪は知ってる。
職人が入ってきたので電話を切った。

人をしんじれないままでももういいな。
閉め切ったしずけさの中に爽やかな毒を吐く。
新しい年を迎えてラテは友達を更に埋葬しだれからも否定される日々を更新する。
コンコルドの美しい耳鳴り。
コガネ虫を追いかけてジグザグに濡れたアスファルトにする激突。
清潔なデータがストックされて積み重なって。
手入れの行き届いたOLの肌を時速70キロで移動しながら見つめる。
飛ぶことに支払われる茶色い現金封筒のなかの現金。
サキソフォンの乱れても且つリズムに忠実な

夜が

くる

あとすこしで

ここまでくる



ラテはゲレンデで今日も雪をみていた。
きれいにピステンのかかったノントラックの斜面は無敵だ。
「生きててよかった」と毎回気がつく生まれたてのきもちでいっぱいのラテ。
飲み物とコンビニおにぎりのはいったリュックをリフトからパークに投げ入れる。

ラテはこのゲレンデを愛している。
このゲレンデのことを考えるといつも泣いてしまうくらい愛している。
「おはよー」
「おはよー」

キッカーと呼ばれるジャンプ台でスピンをきめるときの完全に「無」なかんじがすきだ。
怖いことも楽しいことも平坦になり瞬間だけがただひたすら連続していく。

感覚と距離を体に叩き込む。
意味とかなんて全然わからなくていい。
俯瞰する自分自身のイメージを何回もシミュレートする。
成功するイメージが重なって確信となる。

日が傾くと同時にからだが重たくなる。
もうこれ以上滑れませんから!からの温泉!
って気分になりながら最後の斜面を直滑降ですべりきる。

夕方母親からメール。「許してもらえるか心配です」といった内容の。

ラテはおもう。諏訪は女にもてるのではないかと。
実際女をきらしたことはないのではないか。
たしかに諏訪くんはかっこいい。背も高いし、顔もすき。
一緒にいった温泉へのみちすがら雪景色をみて「おおっ」とかはしゃいでいた諏訪はかわいかった。
ラテは諏訪に抱かれてるときの自分がなんだか特別な女の子あつかいされているようでいつもうれしい。

ちいさい赤ん坊をみるとき諏訪の子供が欲しいなと最近つくづくおもう。
ひたすら考える子供の名前。最近いいなとおもったのは「ひょう」ひょうひょうと生きるかっこよさみたいな。
ああ、ばかみたいだあたし。
しかし諏訪くんもちゃんと結婚したいだろうし子供もほしいだろうな。
しらない女の子ととても楽しそうに人間らしく腕をくんで歩いていく諏訪を想像し
しんと冷える空気を肺にできるだけ吸い込んで
ラテはぼやぼやする視界で自宅への廊下を歩く。
12階から下をのぞき去年自殺した友人のラストツイートをおもいだす。
だれかの涙が遠く遠く離れたアスファルトにむけて落ちてく想像をした。
覚醒したままのくらがり。
「カフェオレのみてー」

健康であること。
それを証明すること。
帰宅してきた母親と口論になる。
ラテは「みんな正しいよね」といって昔からちっとも正しくない自分の人生をこめてひたすらあやまり迷走する。
どうしたらこころはつかれないのだろうか。もっとユーモアがほしい。みんなを笑わせたい。
ぐったりしてきたのでラテは寝た。
どっか遠くにいきたかった。

諏訪が山梨についたのは午前3時だ。
中央道には雪が。





 


散文(批評随筆小説等) ハッピーエンド/2 Copyright モリマサ公 2012-01-20 19:18:18
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