満漢全席
HAL
どうだい甘いかい
どうだい酸いかい
どうだい上品かい
どうだい下品かい
どうだい生臭いか
どうだい美味いか
どうだい苦いかい
ピンポン
それが真実の味だよ
もう一度食べてみるかい
嫌だろう
まだあるよ
同じ味のするものが
みんなきみの手に入れられる所にね
もちろんきみだけじゃない
だれにでも食べられるものなんだよ
それが真実の味
たとえば正義とか
たとえば悪意とか
たとえば同情とか
たとえば憐憫とか
たとえば殺人とか
たとえば戦さとか
みんな真実と同じ味がする
それらはみんな腐った味がする
どれもなまものなんだよ
それらはすぐに見抜けないと
たちまち腐臭を放ち出す
死体と同じようにね
だからそれを知っているものは
だれも自らそれらを口にしようとしない
触れることさえ厭う
これを食べてみなよ
大丈夫だよ毒じゃない
気持ちが悪くなってきたって
いまにも吐きそうな気がするって
何の味か分からない
教えてやろうか それが生の味だよ
じゃあこれはどうだい
初めての味だろう
食べたことのない味だろう
癖になりそうな味だろう
もう言うまでもないね
その通り それが死の味だ
だからひとは死ぬことをたやめられないんだ
その味を一度でも覚えてしまうとね
死ぬのをやめられない
自分だけが味わうのはもったいないからと
世界の果てまで布教に赴いた宣教師のようにね
たくさんのひとたちにその味を分け与えようと
その味を望まぬものにさえ食べてみろよと
美味いぜと言いながらひとを殺したり
もっとたくさんのひとたちに味あわせてやりたいから
戦争と云う満漢全席を起こすんだ
でもそいつらに悪意はないぜ
ただ美味いものを愛する食通なだけなんだ