クロール
山中 烏流
急かすほどに緩まる手綱を
持て余しながら
黒目がちに揺らめく人々の波を掻いて
少女は
遠く、海を目指した
*
蹴り飛ばす買い物袋から、無精卵が弾け飛んで
方々に散る殻を
嗚咽の波が浚っていく
目を塞ぐ手を掻い潜って
後に駆ける子供らの声を背に
少女は
最初の、息継ぎをする
*
言葉はどう足掻こうと言葉なのだから、
そう呟いた少年の
髪の毛を引き千切って
払い除けたのは右腕
初めての呼吸のように
耳を劈いた
その安堵の証拠を
握りつぶしたのは左腕
*
駆け抜けたゴールテープを繋ぎ直して
持ち直す役目は、君たちに譲るよ
少女は
迫る壁を、蹴る