akane
kaz.

いつのころだったか
愛を覚えたときのことだ
三日月が叫ぶ時間、
夜が、Nightが、立ち上がる眩さの瞬間に
終わってしまう微熱を
君、という声の先端は鋭く、血を流した後に
再び傷口が吸って、自分のものにしたときの
記憶、その奥で噛み締め、戻っていく、
夕焼けの時刻まで、帰っていく

見えないものを
見つめようとしていた
秋が、飽きが、身体の中で飽和する
空虚さを、抱こうともぞもぞする、虫けらたちの秋空
それ見よがしに、夕焼けに打たれた
アキアカネの群れ
秋、飽かねえ、なんて洒落てみせた僕に
バカね、と言っていた君を思い返す
重いものを、ひっくり返すみたいに
明るい褐色の空が氾濫して

茜って、こんな色だっけ、
と呟いた、
違うわ、もっと濃い、暗い色よ、
と返した、
二人は、今でも、記憶の片隅
開けてはいけない扉の向こう
夏が終わり、教室の窓辺からの景色
交尾する蜻蛉のつがいが
盛りを過ぎた水たまりのプールで戯れる
夜が、近づくまでの束の間を
味わう僕たちは、
コンドームのようにぬるい
薄汚れた陽だまりの中が一番心地よかった

屋上に来た、
僕は立ち上がり、射精した
屋上から飛散したスペルマが
下を歩くカップルの顔に掛かる
驚嘆の声を上げ、君は
昇天した、雨を降らせながら
そうして、すっかり濡れた誰かの、
月の弧を伝う滴を啜るのは、
傷だと、気づいていた、
僕が、君が、
一番濡れない陽だまりの中、
ぬるい夕焼けに、濡れた髪のように
乱れたのは、二人だけ、
何度も、記憶を呼ぼう、
扉を開けて、開けて、扉は
もうどこにもなくなって、akane、の屋上、
そしてその向こうまで、
どこも、akane、

一番濡れた、月だまりの中、プールの奥まで
浸かっていた、傷口から溶け出すのを見て
懐古する、僕たちは渇いた現実に戻って


自由詩 akane Copyright kaz. 2012-01-18 20:28:04
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