Spotted water(豊穣のひと)
恋月 ぴの
わたしは愛したい
あなたの優しさ
わたしは愛したい
あなたの眼差し
わたしは愛したい
あなたの存在
猫である
愛である
※
ファミレスの窓側席で神事を語る
日替わりランチのコロッケを口いっぱいに頬ばったまま
三杯目のミルクティーへと手を伸ばす
最近、あっちの方はどうなの?
あっち
彼岸での厳粛な神事
霊験あらたかな神を敬い
みずからを生贄として差し出せば
四人がけのテーブル一杯に拡げた贅沢三昧は
専業主婦の慎ましさ
どこかで猫が鳴いているよな
それこそが愛の真実と鳴いているよな
※
わたしは愛したい
あなたの歯並び
わたしは愛したい
あなたの耳たぶ
わたしは愛したい
あなたの襟足
猫である
愛である
※
愛するふたりは手を繋ぐ
愛の在り様を確かめたくて
それぞれの本意を確かめたくて
固く繋ぎあいながらも
ふと離してしまいたくなる誘惑にかられつつ
胸元に秘めた氷の刃
抜くか
抜かぬか
迷い箸は心の迷い
どこかで猫が鳴いているよな
それこそが愛の真実と鳴いているよな
※
わたしは愛したい
あなたの鎖骨
わたしは愛したい
あなたの尾骶骨
わたしは愛したい
あなたの恥骨
猫である
愛である
※
何故に人は未来を我が子に託すのだろう
あなたの語る夢の端々は
切望してやまぬ男児の歩みが総てなら
やんごとなき夜毎の神事と
獣のかたちで繋がる夫婦(めおと)の乾き
どこかで猫が鳴いているよな
それこそが愛の真実と鳴いているよな
猫である
愛である