シーツ
まーつん

経験という鍋の中で茹で上がった
卵の殻を剥くように
お前の理性や
潜在意識を
一枚 一枚
ひとかけらずつ
はぎ取っていって
その むき出しの魂を
この手の中に 見つめてみたい
白く 柔らかく ぎっしりと中身の詰まった

お前の 魂

美味うまそうだ
よだれが止まらないぜ
かぶりつきたくなる そうだ
俺は お前が欲しい その純白を 飲み干して
この黒く爛れた 消化器官の中に 送り込みたい
待ちきれない腸のやつらが 濡れた ウナギの群れのように
俺の腹の中で 恍惚に 我を忘れて ゆっくりと のたくってる

月が輝く夜
白いベッドシーツの上に
広がった 眠れる処女の 長い髪
俺は 泉の水を掬うように この指先で
お前の黒髪を 掬い上げる 若い体温が 柔らかい死衣のように
その身体を覆って お前は惑星 温もりを 大気のようにまとって
そのパジャマのボタンに手をかける 俺の指先は 不時着する小さな宇宙船
産毛のたなびく 甘い肌の大地に ひざまずいて キスをする 
新大陸におののく 旅路の果ての コロンブスのように
茂みに沸いた泉に 俺は乾いた口を付ける
日が昇るように ゆっくりと お前は目覚める
熱くなった身体 汗 吐息
時の流れが 勢いを増していく
さざ波から 急流へと 逃げられない
蜘蛛の巣のような 絹のシーツに絡め取られて
うなじの匂い その焦げ臭さ 壊れたサーモスタット 黒い煙

ああ 熱い 熱い
俺の魂を温め
焼き捨てる お前の熱
黒い瞳 その奥に光る
枯れ井戸の 底にうねる
ひと掴みの 泥のような
青草が香る 夏の記憶のような

お前の 魂

窓から落ちる 庭の木の枝影 春の風に揺れて


自由詩 シーツ Copyright まーつん 2012-01-13 00:45:56
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