あなたという詩集を読む
ただのみきや
あなたという詩集を読む
ページをめくるごとに
あなたは姿を変える
それは紛れもなくあなただ
湖面に張った氷の下で
微かにあなたの体温を感じている
あなたはぼくをぎりぎりまで追い詰める
思想の最上階のレストラン
古びた書物を見下ろしながら
あなたと晩餐の席に着く
ぼくは内ポケットに
五つのなめらかな意思を忍ばせたが
きみの食卓は極彩色で
前菜に翡翠の踏み絵を食べさせられる
どうかメインディッシュの封印が解かれませんように
一つ一つのありふれた言葉が
翅をつけて飛び回っている
麗しのティンカーベル
おっと気をつけろ
蝙蝠の翅に蜂のお尻のやつもいる
羽ばたく蝶の鱗粉は
流星群となり降り注ぐ
街へ 田園へ 野原へ
子どもたちが我先にと欠片を捜し駆けて行く
ぼくも負けてはいられない
あのころの自転車に飛び乗った
あなたは あなたの詩の中に立つ
砲弾が飛び交う戦場で
薄絹をまとったまま
あなたが愛を語るとき
ぼくは耐えられない
あなたの言葉の体温は
ぼくの心よりも高いから
熱力学で引き寄せられてしまう
あなたの言葉は震えていて
ぼくの心は共鳴してしまうから
天に突き刺さった音叉が響き渡って
響き渡って ああ だめだ強すぎる
天蓋が破れ海が降り注ぐ
それは人類が流した涙の総量
100キロメートルの鯨が暴れ出すと
感傷の津波が押し寄せる
鯨と一緒に歌うものか
もっと深く潜るのだ
ページをめくれ
蒼天に乾いた砂埃が舞う
砂と岩の道なき道
こんな冒険ばかりだ
何が 何気ない日常だ
あなたの日常は詩情なんだ
いろいろな事情の二乗
かけ合わされた言葉はもはや尋常ではない
たいした根性だ
乾いた砂漠のイメージの中で
ぼくはサメの歯をひろった
古いものだ
あちらこちらに痕跡がある
ここは昔海だったのだろう
あなたの詩の中に時々よぎる
虚無と荒廃のイメージ
風化したいのちの声を
なんとか繋ぎ止めよるとするかのように
昔いのち溢れる海だったことを
思い起こそうとするかのように
日々堆積して行くありふれた出来事から
あなたはあなたにしか見えない
詩の原石を掘り出して
事象を包む装いを 一枚
また一枚と脱がして行く
そうせずにはいられない
あなたの
口元を想像してみる
あなたという詩集を読む
ページをめくるごとに
悔しいけれど
恋をする