さよなら人類 も けだものも それら以外も
竜門勇気
雨合羽の表面 も
それ以外 も
冷たくてふわりとした雪が
覆い隠してしまう中で
ぼくは道路に立ってる
歌を歌いたくて
部屋を出てしまった
誰ともつながってない時間は
少しづつ長くなっている
返事の書き方がわからなくて
積み上げてしまった年賀状の束
ほんの十数枚位の葉書に向き合えない
子供が、生まれたのかあ 住所が変わってる、新居かなあ
ぼくは元気だよ
いつぐらいからか、みんなは大人になっていた
ぼくの変わったことなんてキャメルが買えなくなったから
ゴールデンバットを吸うようになったぐらいだ
こうやって太陽の浅い時間にコンビニまで歩くようになったぐらいだ
睫毛に綿毛が舞い降りて
溶けさっては眼鏡の内側に万華鏡のような光を爆発させる
雨合羽は優しくてなめらかで
世界とぼくの境界線として確かすぎる存在だ
鍵の束がポケットの中で硬く新しい振動を繰り返している
きっともう何本かタバコを吸って
コンビニから家に帰る頃には
どんなドアだって開けられないただのコインになってるだろう
さよなら 人類も ケダモノも
コインも カギも なにもかも
ぼくと関係のない世界に行ってしまってくれ
さよなら 恋人も トモダチも
居場所も 文明も なにもかも
この雪に隠れたその後は一緒に溶けて消えてくれ
コンビニまでたどり着く前に
ぼくがこのひどい吹雪に紛れていなくなる前に
さよならを言わせてくれ