仮面
nonya


<1>

これがなければ
生きることができなかった

これがなくても
たぶん死ねなかったけれど

これがあったほうが
人様に迷惑をかけない
はずだった

これがあったほうが
すべてまるく収まる
はずだった

これの向こう側を
どうしても見てみたい

君は言った

これのこちら側は
ただの暗闇なんだよ

僕は答えた

それでもいい

言ってくれた
とても向う見ずな君と
気がついたら
一緒に暮らしていた


<2>

オマエが
気取ってばかりいやがるから
酒が不味くなると
友人らしき人の
左の頬は歪んでいた

今にも消えそうな
微笑みを灯しながら

ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい

何度目かの
ごめんなさいの後で
何の悪気もなく
すうっと
仮面をはずしたら

濁った酔いの岸辺には
誰もいなくなっていた


<3>

当り前すぎて
孤独という言葉は
使えなかった

一人で在ることは
食事をすることと
同じだった

茶碗と箸だけで
詩を綴ろうとしたけれど
上手くいかなかった

仮面が
必要だった


<4>

格好つけることが
格好悪いことは
君に言われなくても
分かっているよ

でもどうやったって
顔と手足と想いが
チグハグに動いてしまう
そんな不良品の僕は
どこに居たらいいのかな

偽物の不良品なら
モテたのかもしれないけれど
本物の出来損ないなんて
ただグロテスクなだけだよね

格好つけなければ
格好つかないことは
誰に言われなくても
分かりすぎているよ

だからこうやって
仮面も新調したし
想いがほとばしらないように
ギプスだってつけたから
どこかに置いてくれるかな

ときどき頬が半解凍
のままかもしれないけれど
ときどき目が犬かき
するかもしれないけれど
今日は遊んでくれるよね

別れ際の勢いで
うっかり手を振ってしまった後に
きれいさっぱり
忘れてくれてもかまわないから


<5>

本当の
僕の顔は

月と星座を
煮込みすぎて
正体不明になった
夜空だよ




自由詩 仮面 Copyright nonya 2012-01-06 21:19:47
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