狐の嫁入り
冬野 凪
海豚の背に乗つてゐるのはありやなんだ
海豚を視姦せよと神の啓示
冬の虹途切れ途切れの殺意かな
理知的なナマコの眼が選り好みしてゐる
象牙欲しいなと子どもがねだり二日月
気になるのセーターの毛玉数へ出す
遂にこの谷間に闇が押し寄せる
穴あきのパンツから春がしやしやりでた
指の長いひとでしたなめくぢの這ふやうな
こんにやくのやうなひとになれと父は云つたか
毛玉の数数へても妻子は帰つて来ない
受難だねお金の運命に涙する
魚魚口いつぱいの「罪と罰」
口開けてけふも取り出す「日刊ゲンダイ」
「走れメロス」口から飛び出し逃げ戻る
詩神は口ラッパがお上手
穴といふ穴から詩心が溢れ出る
寒椿昇天してよみがへり
主人公は僕だつたのか死ぬ間際に気付く
蜂飼ひを拐かしてはクローバー摘む
いつもとは違ふ道行く狐の嫁入り
淋しさを殴りつけては椿咲く
淋しさは鬼のかたちして現れる
寝る前にドアを少し開けてみる
淋しさをさかさまにして慰める
まばたけば電気が走る鉱泉水