スワンボート
灰泥軽茶

もやいがほどけて

岸からゆっくり離れ惰性ですすむスワンボート

寂れた観光地の人工湖は静かでのっぺりしている

スワンボートは誰も乗っていないんだったら

おひまをいただき

ペダルを

キイココキイコ

キイココキイコ

どこまでも高く飛んでいき

美しい景色を眺めながら遠くへ飛んでいきたいなと想う

そんなことは叶うはずはないんだけれど

とっくに自分はプラスチックでできた偽物だと

気づいているけれど今日は誰も乗っていないから

軽くて軽くてちょっとした風が吹けば

プラスチックな翼をはためかせ

渡り鳥になれるかもしれないと想う

それにしてもそろそろ仲間の元へ帰りたいものだ

誰も来る気配もなければボートの管理人は

春までは来ないだろう

やれやれと気まぐれな風にあっちへとこっちへと

人工湖を彷徨うスワンボートは

無言の冬を越していく





自由詩 スワンボート Copyright 灰泥軽茶 2012-01-06 02:40:54
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