君が走ると
まーつん

君が走ると 僕は見とれる
魚の群れの様に 小麦畑を泳ぐ風を
小さな身体で押しのけて 少年は走る
そのせわしない息 涙にむせかえる ひたむきなまなざし

今朝 彼の犬が死んだ
一晩中 暖炉の前で虫の息だった
老いた家族の一員は この農園で十分に生きて
流行り病の一つも引かず 命の坂をなだらかに下って
穏やかな泉のような 老衰にたどり着いた その潤いが老犬の身体に
細胞を一つ一つ眠らせる 子守唄のように 冷たく慈悲深く 染みとおっていった

命の終わりは 舞い落ちる枯葉のように
一編の詩を綴っていく だが 少年の猛々しい目は
それを読むことにあらがう 釣りに行くとき 泳ぎに行くとき
いつも後をついてきてくれた 忠実な裸足の友 その栗色の眼には
言葉にならない知恵を湛えて 今 少年に最後の 教えを残していった 

ひとひらの 死を  

こけつまろびつしながら 少年は走る
自分を駆り立てている 不思議な感情を見定めようと
初めてそのまなざしは 己の内側に向けられるが
まだ上手く 焦点を合わせられない
君は今日 悲しみを知った

安らかな友の死に顔
靴底にこびりつく土
地平線に歩き去る青空

君は今日 悲しみを知った


自由詩 君が走ると Copyright まーつん 2012-01-01 11:04:01
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