思い出の泡
板谷みきょう
波のようなうねりのふちに
透き通った涼しげな深い藍の色
始まりの終わりに出会った時は
黒い出目金だったはずなのに
報われない恋を知って
猩々らんちゅうに変わった
流れてくるメロディは
何処かで聞覚えのあるフレーズ
非通知の夕立が降った夜
ダンサーになるはずだったのに
ストリップ小屋の踊り子になって
十日毎に地方廻りをしていた
金魚のデートで連れて行かれたのは
新宿二丁目のおかまバー
商売道具は使わないの
それが口癖になっていた
情けない声をあげて尻餅をついた
あれから数十年が過ぎていた
体を壊した金魚
かつての猩々らんちゅうの面影は失せ
人里離れた療養所に入院している
紅い金魚は発作を起こしては咳き込んだ
白いシーツに紅の染みができた
流れてくるメロディは
何処かで聞覚えのあるフレーズ
波のようなうねりのふちに
透き通った涼しげな深い藍の色
金魚鉢の中でバタフライをして
何もかも忘れガラスの中で
思い出の泡を呟く赤い金魚