光っている背中を
ブルース瀬戸内
シンジ君は言葉を知りません。
錆びついた言葉の海の中から
光る言葉を見つけられません。
シンジ君は優しい男の子です。
でもシンジ君は分かりません。
優しい言葉がなんであるのか
シンジ君はさっぱりなのです。
放射状に大きく広がっている
電子のネットワークを漂えば
答えはすぐに見つかるかもと
どんなに泳いでみたところで
そこでは見つからないのです。
優しい言葉は落ちていません。
シンジ君は優しい男の子です。
でもシンジ君は分かりません。
悲しんでいる人をどうやって
励ませばいいか分かりません。
世界はとてもとても広いです。
宇宙はもっともっと広いです。
なんだってあるはずなのです。
なんだって揃っているのです。
それでも何もできないのです。
シンジ君は途方に暮れました。
ただ光る言葉が欲しいのです。
優しい言葉をかけたいのです。
心を楽にしてあげたいのです。
ここにいるとても大事な人を
ここにいるかけがえない人を
少しでも助けたいと思います。
少しでも支えたいと思います。
シンジ君は背中をさすります。
大事な人の背中をさすります。
長い時間、背中をさすります。
そうすることしかできません。
窓からは光が差してきました。
光る言葉ではなかったけれど
光そのものが差してきました。
今度はシンジ君が泣き始めて
それを見て大事な人が笑って
シンジ君の背中をさすります。
光っている背中をさすります。
光が徐々に強くなってきます。
光が放射状に広がってきます。
そうやって全部を包むのです。
全部を包んでないかのように
そうやって全部を包むのです。
シンジ君は優しい男の子です
と、大事な人が微笑みました。