大手町 一二月
……とある蛙
師走、大手町に佇む
結論を先に述べれば
大手町は冬が似合う
春は似合わない背広を着た集団がおしゃべりをしながら行き来し
秋には忙しそうに眉間に皺を寄せた人々たちが行き交う
夏はいけない
夏はひどく蒸し暑く
日比谷通のアスファルトが歪んで溶け出し
ゆらゆら揺らめいている。
左手に
官庁と日経関係施設建物
ガラス張りのエントランスホール
膨らみの無いエンタシス
御一新以降
銀座と並ぶレンガ街区
次々増設されたビルディングの群
その中に将門が怨霊
大蔵省を恐怖させ
元神田明神
前方神田橋を越え
本郷通りが小川町交差点まで伸びている
歩道上を行き来する表情の無い群衆
曖昧な物を清潔感が包んだ無責任
掘割外堀に覆いかぶさる
首都高速の濃密な陰が投射する
大東京の中心付近の暗黒
暗渠と言って良い神田橋付近
神田橋を渡ると左右三本づつの
大小の銀杏の樹
銀杏は古木ではなく
樹皮も若々しい
しかも存在感は無く
上京したての大学生のように初々しい
道に沿って立っておらず
生き物としての主張が無い
涸れ掛けの観葉植物のように立っている。
車道には歩道を行き来する人より
遥かに大量の車両が行き来する
物言わぬ巨大な甲虫が
実は轟音を発する鋼虫で
ちっぽけな人間を食い散らかして
ちっぽけな人間の心も
金も夢も時間も飲み込む
毒虫だったことを誰も気づかない
利便性と危険性
ステータスと欲望
増殖と無限ループ
あふれ出す欲望は結局静脈のような道路の増殖をもたらし、自然の破壊とその言い訳に終わっている、
神田橋を渡りビジネス街のビルを両側の眺め
小川町交差点まで
かつてあったヤソの堅牢なビルディングは
今は無く
相変わらずの不動産屋の瀟洒なビルに立て替えられ
文化の色は消えうせた。
すべては商売ビジネス
小川町交差点
靖国通に怨霊
靖国通を行き来する
御霊は本当に成仏しているのか
はるか右手に東京スカイツリーが聳える
師団単位の旧陸軍兵士の行進
ニコライ堂を左手に過ぎ坂を上る
旧日立本社社屋は解体され
再開発の槌音
個性の無い町作り
その怨念の坂
バブルが町を変えたのではなく
バブル崩壊が町を変えた。