裁縫
草野春心



  西日でぬるくなった床に
  灰色のハンチング帽を落とす
  埃の膜がふんわりと散って
  光の白い模様を描く
  リュックサックをベッドに抛って
  窮屈なコートをハンガーにかけ
  少しずつ
  少しずつ耳を澄ますと
  透き通ったふたつの針が
  誰かの膝の上でチクチク動き
  柔らかな塊を縫っているのが聞こえる
  手のひらで器用に向きを変えつつ
  慈しむように糸を通すのが
  一本目の煙草に火をつけ、僕は
  じっと立ち止まっている
  その塊が僕に
  手渡されるのを待って





自由詩 裁縫 Copyright 草野春心 2011-12-29 10:31:45
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