しめ殺し屋
ただのみきや
アマゾンの絞殺し屋といえば
大蛇アナコンダを思い浮かべるかもしれないが
本当はもっとすごいやつがいる
アマゾンのイチジク
それはジャングルの生態系を支える基幹植物のひとつ
細く弱々しい姿で巨木にすり寄り
そのたくましいからだに
身を這わし
からみついて
鬱蒼とした世界から
日の当たる場所へと身をのばす
すると豹変し始める
太く
固く
抗えない力で
おのれがすがり支えられた
相手を 死の抱擁で
ぎりぎりと締めつけ
締めつけ 締めつけ
殺してしまう
やがて
巨木のかたちにぽっかりと空いた
不在の穴を抱いて
イチジクだけがそこに佇んでいる
日本にも絞殺し屋の眷属たちが住んではいるが
地球温暖化の影響で
このアマゾンのイチジクも北上し
すでにこの国にも暮らしている
はじめは皆が喜んだ
「人の世にも巨木ならぬ巨人となり
日の光を独占し場所をとりすぎる輩がいる
そんなやつらをぎりぎりと締め上げてくれるなら大歓迎だ」
だが実際は違っていた
そもそも人間の道理が
アマゾンの絞殺し屋に通用するわけがない
イチジクは自分の絞殺したいものを絞殺す
昨今の蒸発 失踪のほとんどは
やつらの仕業なのだ
環境に適応したやつらは
ある時は弱々しく男が助けずにはいられない女の姿で
ある時は甘いことばでささやく優男の姿で
愛している 愛していると
その腕を絡みつけ
そのからだを寄り添わせ
その男や女の生活を少しずつ
覆ってゆく
はじめ程よい束縛が心地よく
激しい抱擁に情欲は燃え上がるが
イチジクはある時を境に
豹変し始める
固く
太く
抗えない力で
おのれがすがり支えられた
相手を 死の抱擁で
ぎりぎりと締めつけ
締めつけ 締めつけ
殺してしまう
人格的にも
社会的にも
やがて
その人のかたちにぽっかりと空いた
不在の穴だけが残るが
すぐにまわりの人々も
それに慣れてしまうのだ