巡る
Akari Chika
季節は冬から 深い冬へと移行していく。
氷が張る
霜が降りる
陽の傾きが早くなる
その予兆は至る場所で目にすることが出来るが
視界が澄めば澄むほど
思考は閉ざされていくのは何故だろう。
振り返るでも
進むでもなく
意識の檻の中だけで展開する世界に
戸惑いつつ、
ひらめきを泳がせ
想いを馳せる。
夕焼けの美しさに幾度も目を閉じながら
♯♯♯
ある夏
自転車のカゴに枯れ果てた落ち葉が迷い込んだ
灼熱の太陽に似合わぬそれを拾い上げると
音もなく崩れて地面へ消えた。
私は宇宙の裏側で待機しているであろう
遥かの秋を思い出した
ある冬
内側から滲み出る孤独感に胸を支配され
泣きながら自転車を走らせていると
甘い花の香りが鼻をくすぐった。
突然の出来事に涙は止まり
春の予感が私を慰めた
季節はいつも私たちの先を行き
それとなくタイムマシンを送り込んでくる。
未来からの手紙が届くタイミングは分からないけれど、
土の中の動きや
上空の様子
光の循環
など、
肉眼では確認できないところに秘密が隠されているのかもしれない。
桜が散る様子に浮つくのも
青々と茂る緑に微笑むのも
アーティスティックな紅葉に胸を躍らせるのも
白銀に心の明暗を重ねるのも
すべては人間の勝手だが、
“めぐる”
というたった一言に翻弄されて生きている
私たち。
その事実を最も明確にするものが「季節」なのだ
と、思う。
生きているとどうしても鈍感にならなければいけないときがある
無理やり心の鍵を閉じるようなものだ。
鋭敏になってはいけない、
と耳元で警鐘が鳴る。
そういうときをやり過ごすのが
私にとって
何よりつらいこと。
空の色が染まるころ
解放された心と共に
詠いながら歩くことを
楽しみに過ごしている。
鳥が羽根を擦り合わせるときのような
わずかな音。
わずかな温度。
例えるならこのくらいのスピードで変化する「季節」
は、
私の生きるペースととてもよく似ている。
四つでは割り切れない、
気まぐれで
さびしがりで
泣き虫で、
そのくせ
勇敢で
強かで
誰よりも優しい、
古い古い私の友達。
♯♯♯
冷え切った首元にマフラーを巻き付けると
そこに
ぽっかり
自分だけの空間が出来たように感じる。
こっそり、ある歌のフレーズを響かせると
頬のあたりまで
ほわん
と暖まる。
今夜は
三日月、
細く鋭い
弓矢のような お月さま。
あなたはもう
知っている?
次の季節の
訪れを。