通りすがりのひと
恋月 ぴの
そういうことだったんだ
と
気付くことがある
ものごとは複雑に絡み合っていて
原因があって結果がある
そしてその結果が今度は原因となって
新たな出来事を誘発する
「無間地獄」
と
までは言い切れないにしても
※
いつもなら横浜の実家に戻り
大晦日は紅白を眺めながら母のとめどない愚痴に付き合い
台所でお雑煮を作る音に目覚めれば
歯を磨きつつ新聞受けに押し込まれた分厚い新聞の束と格闘し
お重に賑やかなお節料理をつまんでみる
どこぞのお節なんだからと母のウンチクに空返事
それでも、ところ狭しと並ぶお正月らしさ
ふたりテーブルに向かい合い
あけましておめでとうございますと手を合わせれば
いつもながらの正月を迎えることができた
※
年金の手続きにと取り寄せた除籍の住民票
父の名前
そして母の名前にも取り消し線が記されていた
あの家には誰もいなくなったんだ
そのときは、そんな感慨しか浮かばなかったのだけど
帰るところの無くなった正月を迎えようとして
改めて思うのは
ひとが生きることの意味
ひとが亡くなることの意味
みぞれ雪の波打ち際で
寄せては返す波間に揺れる母の面影
※
お寺さんからいただいた立派な母の戒名
ありがたくも我が身の至らなさを思い知らされ
こんなお正月もあるのかと
間に合わせの粗末な仏壇に向かって手を合わす