通りすがりのひと
恋月 ぴの

そういうことだったんだ

気付くことがある


ものごとは複雑に絡み合っていて
原因があって結果がある
そしてその結果が今度は原因となって
新たな出来事を誘発する

「無間地獄」

までは言い切れないにしても




いつもなら横浜の実家に戻り
大晦日は紅白を眺めながら母のとめどない愚痴に付き合い

台所でお雑煮を作る音に目覚めれば
歯を磨きつつ新聞受けに押し込まれた分厚い新聞の束と格闘し
お重に賑やかなお節料理をつまんでみる

どこぞのお節なんだからと母のウンチクに空返事

それでも、ところ狭しと並ぶお正月らしさ
ふたりテーブルに向かい合い
あけましておめでとうございますと手を合わせれば

いつもながらの正月を迎えることができた




年金の手続きにと取り寄せた除籍の住民票

父の名前
そして母の名前にも取り消し線が記されていた

あの家には誰もいなくなったんだ
そのときは、そんな感慨しか浮かばなかったのだけど

帰るところの無くなった正月を迎えようとして
改めて思うのは

ひとが生きることの意味
ひとが亡くなることの意味

みぞれ雪の波打ち際で
寄せては返す波間に揺れる母の面影




お寺さんからいただいた立派な母の戒名

ありがたくも我が身の至らなさを思い知らされ

こんなお正月もあるのかと
間に合わせの粗末な仏壇に向かって手を合わす






自由詩 通りすがりのひと Copyright 恋月 ぴの 2011-12-26 14:22:57縦
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