クリスマスの思い出
吉岡ペペロ
幸福とはこういうことを言うのだろう
幸福とは
幸福のようなものが
重ねられてゆくことを言うのだろう
叔父夫婦は熱心なキリスト者だった
はじめてのクリスマスの日
彼らはぼくに映画ETのチケットと
どこで手に入れたのかアントニオ猪木のサインをプレゼントしてくれた
夕食はいつもより洋食寄りのものが並んでいた
グラタン、カレーライス、ローストビーフ、
ローストビーフははじめてだった
クレソンを食べるのもはじめてだった
このひとたちがお金持ちでよかった
キリストはこのひとたちを護っていた
食後叔父さんがウクレレできよしこの夜を演奏した
続いて叔母さんが月の光とショパンを弾いてくれた
あのころ世間的に見ればぼくは不幸に違いなかった
しかしあの夜ぼくには
何枚かの幸福が重ねられていた
幸福とはこういうことを言うのだろう
幸福とは
幸福のようなものが
重ねられてゆくことを言うのだろう