MISSION
ただのみきや


こんもりと雪に覆われた朝
夢中でついばむすずめたちは
埋もれることもなく
枯草を折ることもない
だがまんまるの愛らしさは鋭い冷気への対抗
食糧不足は天敵も同じ
生きることは戦い
いのちあることは恵み
今朝この空き地が彼らに備えられた食卓だ

 汝 言葉を殺すなかれ

それは物体と現象の従属物ではない
貶めるな 縛るな 解き放て
矮小化するな 
息を吹き込め それが使命だ
言葉にはいのちが在り心が在る
そこには語り書き記した者の意志
情熱や知性が息づいているのだ
言葉から全ては始まる
言葉によって全ては変えられて行く
言葉は時代を超えて行く

あの日
テレビのニュースを見ながら思った
なぜ札幌ではなく福島だったのか
生きているわたしと津波にのまれた人々
そこに何の違いがあったのか
近所の保育所の幼子たちを見ながら
思わずにはいられないのだ
なぜ誤診のために2歳で息子は寝たきりになり
5歳で天国へ逝ったのか
無邪気に遊ぶ幼子たちと息子の違いは何だったのか
地球の裏側で生きるために銃を持ち
人殺しの訓練を受けている子供たちと
衣食に事欠くこともなく学校にも行けるこの国で
自らのいのちを絶ってしまう子供たち
そのいのちにどれだけの違いがあるというのか

答えは 沈黙だ
どれほど論じてみても誰の責任にしてみても
失われたものはすでに解答より遥かに重い

だが今 わたしは生かされている
そしてあなたも
わたしたちは失われた者たちに対して勝者ではない
競争を勝ち抜いたわたしたちが生きていて
勝てなかった彼らが死ぬのは当然だと言える訳などない
彼らはわたしたち わたしたちは彼らなのだ

生かされている
だがそこは安穏と過ごせる楽園ではない
生かされている
だからこそ生きるために戦わなければならない
凍てつく雪原で天敵に追われながらも
切り立ったビル街の暗い路地裏を足早で歩く時も
不条理の泥濘の中で縋る手が見当たらなくても
明日が怖くて震えが止まらなくても
いかに弱々しく小さないのちであっても

すずめたちは飛び去った
後には小さな足跡がいくつも残されていた
それは白い雪に書かれた一遍の詩
いのちで刻まれた言葉
だから書く
言葉を解き放つ
名を馳せることがなくても
立派な本を出すことがなくても
誰かが読む
そして心に何かが始まる
たとえそれが小さな波紋であっても
わたしがすずめの足跡を見て
この詩を書いたように

         《MISSION:2011年12月》



自由詩 MISSION Copyright ただのみきや 2011-12-25 23:18:03
notebook Home